WSOFTScriptからの移行
この記事では、AliceScriptによる開発と従来のWSOFTScriptによる開発の類似点と相違点について説明します。
Warning
WSOFTScriptバージョン2020LTSおよび0.07R4以降、新たなバージョンのWSOFTScriptの開発は行われません。WSOFTは、2022年6月18日に、すべてのWSOFTScriptまたはWSOFTScript.XならびにWSOFTScript.Pocketの各バージョンのサポートを終了します。
今後のWSOFTScriptのサポートについてはWSOFTScriptのライフサイクルを参照してください。
この記事では、AliceScriptによる開発に関心があるWSOFTScript開発者を対象に、WSOFTScriptとAliceScriptの開発の違いを解説しています。 WSOFTScriptについて詳しく知るにはWSOFTScriptのサイトを参照してください。
はじめに
AliceScriptが登場するまで、簡易的なコンソールアプリケーションとShangri-laによるデスクトップアプリケーションの開発は、WSOFTScriptを用いて行われて来ました。まず第一に、WSOFTScriptのメインライブラリは複雑で、サイズも大きなものでした。また、組み込みの例外処理やデバッグ支援機能はまだ未成熟で、信頼性の高いアプリケーションを開発するには脆弱でもありました。
AliceScriptが登場し、従来のWSOFTScriptはAliceScriptへと進化しました。AliceScriptのさまざまな改良により、ライブラリは小さくまとまり、組み込みの例外処理やデバッグ支援機能も実装され、信頼性の高いアプリケーションを開発することができるようになりました。しかしその一方で、WSOFTScriptに実装されていた一部の機能は実装されていなかったり、多くの組み込み機能を使用するためにAlice.Runtime.dllが必要になるなど、設計思想に起因するいくつかの根本的な違いも残っています。
この記事では、はじめににAliceScriptで開発を始めるために必要な作業を確認します。(すでにAliceScriptを使用している場合はこのセクションを飛ばしても構いません)。次に、AliceScriptを使って簡単なコンソールアプリケーションを例として作成し、WSOFTScriptとAliceScriptの機能の類似点や相違点を実際に見てみます。
AliceScriptを使用するための準備
AliceScriptを使用したアプリケーションの開発についての説明の前に、まず、Losettaを実行できるコンピューター用意する必要があります。Losettaを実行するために追加で必要なランタイムなどはありません。Losettaのランタイムは自己完結型で機能します。
自分のコンピューターAliceScriptを実行する場合は、AliceScriptをコンピューターインストールする必要があります。AliceScriptをインストールする方法については初めてのAliceScriptを参照してください。
はじめてのAliceScriptアプリケーションの作成
AliceScriptアプリケーションは、WSOFTScriptアプリケーションと同じように、任意のテキストエディターで作成できます。
それでは早速、簡単なコンソールアプリケーションをAliceScriptで作成して、AliceScriptアプリケーションの作成方法のWSOFTScriptとの違いについて実際に見てみましょう。任意のテキストエディターで次のコードを入力してください。
ファイルを保存したら、次のコマンドを入力して実行します。
Hello,World!と表示されれば成功です。
ここまでの作業を通じて、AliceScriptとWSOFTScriptとの大きな違いは見当たりません。これは、print関数がWSOFTScriptと同じようにAliceScriptに組み込まれているからです。しかし、XML操作や正規表現など、WSOFTScriptには組みこまれていたがAliceScriptには組み込まれていない関数を使用する場合に注意が必要です。
AliceScriptのライブラリには、AliceScript.dllに加えて、Alice.Runitime.dllがあります。これは、AliceScript.dllと同じディレクトリに配置されているときにデフォルトで読み込まれる、AliceScriptのライブラリ群です。ここに、ファイル操作などのよく使う関数やクラスが実装されています。Alice
に所属しない名前空間の関数やクラスを使用するためには、using
指令を使用して事前に使用することを宣言する必要があります。
次の例では、まずWSOFTScriptを使用してHello,Worldをテキストファイルに書き込みます。
このコードと同じ動作をするAliceScriptのコードは以下の通りです。
注目すべき唯一の違いは、関数の呼出前にusing
関数が呼び出されていることです。using
関数は特別な関数で、指定した名前空間から関数群を読み込むことを事前に宣言します。これが、WSOFTScriptでも関数表現import("WSOFTScript.Shangrila");
や、フラグ表現[Import:"WSOFTScript.Shangrila"]
と決定的に異なる点はusing
がファイルを読み込むのではなく、すでに読み込まれたライブラリから名前空間を使用可能なように読み込む点です。AliceScriptでも、ファイルを読み込む際にはimport("ファイル名");
が必要です。
関数とフラグ
ところで、AliceScriptにはWSOFTScriptに実装されているようなフラグ機能はありません。インタプリタに事前に報告すべき情報がある場合は、前処理指令を使用します。たとえば、次のフラグの機能を、AliceScriptで表現することを考えます。
AliceScriptには対応する指令として、#print
指令があります。具体的には次のコードは、WSOFTScriptの上のコードと等価になります。
また、WSOFTScriptでは.NETライブラリを読み込む際に[DllImport]
を使用していました。しかし、AliceScriptではそれぞれのスクリプトでimport
関数を呼び出します。
さらに、AliceScriptの関数には、オーバーライドという概念が導入されています。この概念によって原則同じ関数を複数回定義することはできません。同じ関数を複数回定義されることが予想される場合は事前にvirtual
属性を付与することを検討してください。また、属性の付与された関数を上書きする場合には、override
属性を付与します。次に例を示します。
function virtual Func()
{
print("Hello");
}
Func();//出力:Hello
function override Func()
{
print("World");
}
Func();//出力:World
また、AliceScriptの関数は可変長個の引数を受け取ることができる、params
パラメーターをサポートしています。これは、その関数に幾つでも引数を渡すことが可能であることを表しています。次に例を示します。
function Func(parms args)
{
print(args);
}
Func("A","B","C");//出力:["A","B","C"]
この時、args
は自動的に配列型になります。引数は省略することもできます。 関数について詳しくは、関数も参照してください。
変数
変数に関する重要な変更についても注意が必要です。まず、WSOFTScriptとは違い、AliceScriptでは、未定義の変数を宣言するときにvarキーワードが必須になりました。また、一度宣言された変数にvarキーワードを使うことはできません。
スコープは、その変数が有効な範囲です。WSOFTScriptでは、すべての変数はグローバル変数として定義されていました。AliceScriptでは、通常の変数(これをローカル変数と呼ぶことにします)は、そのスコープとそれ以下のスコープの範囲に限られます。AliceScriptでグローバル変数を宣言するには、varキーワードの後にpublic修飾子をつけます。次に例を示します。
定数は、AliceScriptで導入された新しい機能です。定数は、一度のみ宣言でき、一度定義するとそれに再度代入することはできません。宣言するにはvarキーワードの代わりにconstキーワードを使用します。定数にもやはりローカル定数とグローバル定数が存在します。次の例では、ローカル定数lconst
とgconst
をそれぞれ定義します。
変数について詳しく知るには、変数を参照してください。
繰り返し構造の違い
AliceScriptでは、WSOFTScriptとは異なり完全なfor文とforeach文の分離が図られました。AliceScriptでは配列からひとつひとつ取り出して実行するためにfor文を使用することはできません。また、foreach(item as array)
や、foreach(item : array)
の形は使用できなくなりました。代わりにforeach(item in array)
を使用してください。array.Foreach(delegate(item));
の形も使用できます。次の例を参照してください。
さらに、Alice2.2からは高度な配列操作が導入されました。たとえば、重複している可能性のある数値に変換できる文字列と数字を含む2つの配列をひとつにまとめ、なおかつ重複を除くには以下のような複雑なコードが必要でした。
import("WSOFTScript.IO");
var ary1 = [0,1,"2",4,2];
var ary2 = [5,"3",5,"6"];
// ひとつにまとまった配列を作成
var ary = list_merge(ary1,ary2);
// 結果となる新しい配列を作成する
var result = [];
// ひとつづつ配列を読み出す
foreach(item in ary)
{
var true_item = item;
if(item.type=="STRING")
{
// 文字列の場合、number型への変換が必要
// そのため一度ファイルに書き込んでそれを実行し結果とする。
file_write_text("tmp","return "+item+";");
true_item = include("tmp");
}
// 結果の配列にない要素であれば追加する
if(!result.Contains(true_item))
{
result.Add(true_item);
}
}
// 結果を出力
print(result);
// 出力例 : [0,1,2,3,4,5,6]
これをAlice2.2を使って書き直すと以下のようになります。
var ary1 = [0,1,"2",4,2];
var ary2 = [5,"3",5,"6"];
var result = ary1.Select(item=>item as number).Union(ary2.Select(item=>item as number));
ちなみに、分解して解説すると次のようになります。
var ary1 = [0,1,"2",4,2];
var ary2 = [5,"3",5,"6"];
// それぞれの配列のすべての要素を数値型に変換
var num_ary1 = ary1.Select(item=>item as number);
var num_ary2 = ary2.Select(item=>item as number);
// 二つの配列の和集合を求める(重複は含まれない)
var result = num_ary1.Union(num_ary2);
ここでは、array.Selectメソッドとarray.Unionメソッドを使用しました。もっと詳しく知るにはそれぞれの説明を参照してください。
AliceScriptでは終了条件までループするuntil文は廃止されました。しかし、while(!bool)で代用できます。
型の違い
AliceScriptではWSOFTScriptからいくつかの型が追加または変更されました。次にそれらの型を示します。
Bool型
WSOFTScriptではif文やwhile文のように条件をとるステートメントには、number型の0を偽とし、非0を真としていました。trueやfalseキーワードはそれぞれ1や0を返していました。 AliceScriptでは、真または偽のいずれかを表現することのできるbool型が導入され、bool型を厳格に求めるような場面が頻繁にあります。これは、比較式が必要な場面で代入式も使用できてしまい、混乱を招く恐れがあったためです。 AliceScriptでは、trueやfalseキーワードはそれぞれbool型のtrueやfalseを返します。次に例を示します。
Type型
AliceScriptには変数の型を表現するtype型が存在します。すべての変数はTypeプロパティを実装していて、その変数の型を表す値を取得できます。これはWSOFTScriptのTypeプロパティに似ています。しかし、WSOFTScriptのTypeプロパティはtype型ではなくstring型でその値を表す文字列表現を返します。string、number、boolキーワードなどはそれぞれの型の値を表す定数です。また、型変換演算子asを使用することでその型に変数を明示的に変換できます。次に例を示します。