関数
この記事では、AliceScriptでの関数について説明します。
概要
関数(function) とは、特定の操作やタスクを実行するためにまとまった処理のかたまりのことです。 関数を使用すると、何度も同じ処理を行う部分を再利用することができるうえ、コードを構造化し、保守性を向上させるのに役立ちます。 AliceScriptの関数はデリゲート型を通して第一級関数としての性質を持ちます。
AliceScriptを用いたプログラミングでは、何度も使用する処理でなくても、特定の処理単位で関数にすることをオススメします。
この記事では、AliceScript 3.0以降を対象に説明しています。Alice2.3以前を使用している場合は、「function」をご覧ください。
関数の定義
関数は、コード中でキーワードとともに、関数の名前および引数を指定して定義します。
まずは次の例を参照してください。この関数はa
とb
の和を求めます。
この例では、1行目の先頭から関数の出力する値(=戻り値)の種類、関数の名前、関数に入力する値(=引数)を定義しています。(関数に値を入力することを「渡す」ということがあります。)この例にある関数の場合関数の戻り値の種類はnumber
、関数の名前はAdd
、関数に入力する値はnumber a
(種類はnumber
)とnumber b
(こっちもnumber
)です。
関数名には、アルファベットや漢字、ひらがななどの文字と、_
(アンダーバー)、数字や一部の記号(先頭以外で使用可能)が使用できます。詳細については、識別子を参照してください。
関数が行う処理は、{ }
の中に書きます。また、関数の出力にしたい値(=戻り値)は、returnの後に書きます。
関数の呼び出し
定義した関数の処理を実際に実行する(=呼び出す)には、変数 = 関数名(入力)
のように記述します。また、AliceScriptでは関数名に大文字小文字の区別はありません。
次の例を参照してください。
var x = 1;
var y = 2;
var result = Add(x,y);
print(result);
// 出力 : 3
// 大文字小文字が一致していなくても呼び出せる
result = add(result,x);
// 出力 : 4
関数は、定義されるより前に呼び出すことはできません。 たとえば、次の例ではエラーが発生します。
var x = 2;
var y = 1;
var result = Sub(x,y);//まだ定義されていないためエラー
number Sub(number x,number y)
{
return x - y;
}
また関数は、定義されたスコープの範囲内でのみ呼び出せます。 次の例を参照してください。
string input = read();
if(input != "")
{
string addPeriod(string str)
{
return str + ".";
}
print(addPeriod(input));//これは呼び出せる
}
print(addPeriod(input));//これは呼び出せない
引数
「関数の定義」で説明したように、引数は関数に入力する値を指します。引数には「引数として渡す値」と「引数を受け取るための変数」のふたつの意味があり、前者を実引数、後者を仮引数といいます。次の例をご覧ください。
すでに前の例で示したように、関数には複数の引数を設定できます。
複数の引数を指定するには、次の例のように引数を,
で区切って並べます。
// x,y,zがそれぞれ仮引数
number Norm(number x,number y,number z)
{
return x ** 2 + y ** 2 + z ** 2;
}
// 2,3,4がそれぞれ実引数
print(Norm(2,3,4));
数学とは異なり次のように、引数のない関数を定義することもできます。 引数のない関数を定義するには、引数リストを空にします。
オプション引数
引数に既定値を設定することで、呼び出し時にその引数の設定を省略するでき、この機能をオプション引数といいます。 まずは次の例をご覧ください。
number Sum(number x,number y = 0,number z = 0)
{
return x + y + z;
}
Sum(1); // 結果 : 1 Sum(1,0,0); と同じ意味
Sum(1,2); // 結果 : 3 Sum(1,2,0); と同じ意味
Sum(1,2,3); // 結果 : 6
Sum();// [x]は省略できないためエラー
このように、オプション引数を省略すると既定値が使用されます。
オプション引数を使用できるのは、必須引数より後ろの引数のみです。 オプション引数の後に必須引数を設定するとエラーが発生します。
可変長引数
たとえば、いくつかの数値のうち最大の数値を求める関数を作成するとき、愚直に実装すると次のようになるでしょう。
number Max(array items)
{
number max = 0;
foreach(number n in items)
{
if(max > n)
{
max = n;
}
}
return max;
}
var a = 10;
var b = 15;
var c = 5;
var nums = [a,b,c];
Max(nums); // 結果 : 15
この方法では、引数を一度配列に格納してから関数に渡す作業が必要です。このような方法では関数を使う人の負担になってしまうため、この作業を自動化するために可変長引数を導入しました。 前の例を、可変長引数を使用して書き直した例を示します。
number Max(params items)
{
foreach(number n in items)
{
if(max > n)
{
max = n;
}
}
return max;
}
var a = 10;
var b = 15;
var c = 5;
Max(a,b,c); // 結果 : 15
Max(); // 結果 : 0
可変長引数を使用するには、関数の定義時に可変長引数に設定したい引数にparams
キーワードをつけます。また、このキーワードがついた引数は自動的に配列になります。
呼び出し側では、関数に可変長個の引数を指定して呼び出します。
また、可変長引数は呼び出し時に省略することもできます。上記の例では、Max();
のようにitems
にひとつも指定しなくてもエラーにはなりません。
可変長引数を使用できるのは、すべての引数の末尾のみです。 また、ひとつの関数に複数の可変長引数を指定することはできません。 可変長引数の後に引数を設定するとエラーが発生します。
参照渡し
通常、関数内で仮引数に別の値を代入しても、実引数への影響はありません。次の例をご覧ください。
void ModifyParam(number x)
{
x = 10;
print($"x = {x}");
}
var n = 2;
ModifyParam(n);
// 出力 : x = 10
print($"n = {n}");
// 出力 : n = 2
この例で実際には、ModifyParam
にはn
の値のコピーが渡されています。そのため、ModifyParam
内でx
の値を書き換えてもn
の値が変わることはありません。
引数としてオブジェクトを渡す場合も同様です。関数にオブジェクトを渡す際にはオブジェクトへの参照情報がコピーされます。オブジェクト自体がコピーされるわけではないことにご注意ください。
しかしこのような仕様では、関数から呼び出し元の値を書き換える機能がないため、複数の値を返すときなどに不便です。
そこで、次のように引数にref
キーワードをつけて参照渡しを行うことで、関数に値ではなくその変数への参照を渡すことができます。次の例をご覧ください。
void AddFive(ref number x)
{
x += 5;
}
var a = 2;
print($"a = {a}");
// 出力 : a = 2
AddFive(ref a);
print($"a = {a}");
// 出力 : a = 7
注目すべき点は、呼び出し時にもref
キーワードをつける必要があることです。参照渡しを行うと、関数の呼び出し前と呼び出し後で変数の値が変わる可能性があります。AliceScriptでは、プログラマーの意図しない場所で値が書き変わってしまうことを防ぐため、参照渡しを行う際には必ずref
キーワードをつける必要があります。
拡張メソッド
拡張メソッドは、関数をオブジェクトのメソッドと同じ形式で呼び出せるようにするものです。
たとえば、英文を読むのにかかる時間を簡易的に推測する関数を作成することを考えましょう。次の例をご覧ください。
number ReadingTime(string str)
{
// 一秒間に1.2単語読めると仮定
// GTECでこういうの測れるよね
const WPS = 1.2;
// 要は、文中の空白の数を数えている
var words = str.Split(' ');
return words.Length / WPS;
}
string text = "Feugiat dolores in duo sanctus clita et blandit accusam ea luptatum ea no eleifend eirmod duo in erat.";
ReadingTime(text); // 結果 : 14.1666666667
私がtext
を読むのにはだいたい14秒かかるみたいです。
これを拡張メソッドを使用すると、次のように呼び出すことができます。
number ReadingTime(this string str)
{
// 一秒間に1.2単語読めると仮定
const WPS = 1.2;
// 要は、文中の空白の数を数えている
var words = str.Split(' ');
return words.Length / WPS;
}
string text = "Feugiat dolores in duo sanctus clita et blandit accusam ea luptatum ea no eleifend eirmod duo in erat.";
text.ReadingTime(); // 結果 : 14.1666666667
拡張メソッドを定義するには、次のように第一引数にthis
キーワードをつけます。このとき、this
キーワードがついた引数をレシーバーといいます。
これまでの例では、this
キーワードの後に型キーワードをつけてきましたが、省略するとすべての型で拡張メソッドが呼び出せるようになります。逆に、型キーワードをつけると、その型の変数からのみ呼び出せます。
また、先ほどの参照渡しを拡張メソッドに使うことはできません。
このようにして定義した関数は、通常通り関数として呼び出すこともできますし、オブジェクトのメソッドのように呼び出すこともできます。
string text = "This is a pen.";
ReadingTime(text); //通常の呼び出し方
text.ReadingTime(); //拡張メソッドとして呼び出し
この性質が逆にあだとなる場合があります。たとえば、string
型にAdd
メソッドを追加したとすると、そのAdd
という名前の関数が通常の方法でも呼び出せてしまいます。この問題を回避するために、関数の定義時にextonly
キーワードをつけると、拡張メソッド専用の関数になり、通常の呼び出し方法では呼び出せなくなります。次の例をご覧ください。
extonly number ReadingTime(this string str)
{
// 要は、文中の空白の数を数えている
var words = str.Split(' ');
return words.Length;
}
string text = "This is a pen.";
text.ReadingTime(); //これはできる
ReadingTime(text); //これはエラー
拡張メソッドは、そのオブジェクトのメソッドがない場合にのみ呼び出されます。拡張メソッドの呼び出しは通常の関数の呼び出し規則と同じです。
戻り値
戻り値は、関数が出力する値のことです。また、関数が値を出力することを、「関数が戻り値を返す」といいます。 関数は、呼び出し元にreturnキーワードを使用して値を返すことができます。関数の戻り値は呼び出し元でそのまま値として使用できます。次に例を示します。
戻り値の型を指定しているとき、その型以外の値を返すとエラーになります。次に例を示します。
次のように、戻り値の型を省略することもできます。
このように定義された関数は、どんな型の値でも返すことができます。(variable
型を指定しているのと同じ)
f(x)
{
return x + 1;
}
var y1 = f(1); // y1 == 2 (数値型)
var y2 = f("A"); // y2 == A1 (文字列)
戻り値のない関数も定義できます。
戻り値のない関数は、次のように戻り値の型をvoid
にします。
戻り値のない関数では、return
は関数の実行を中断することを意味します。
次に例を示します。
void ShowHello()
{
print("Hello");
return;
print("Hello,(again)");// ここは実行されない
}
ShowHello();
//出力例:Hello
スコープ
関数は、変数と同じように、そのスコープ内で一意な名前である必要があります。スコープの範囲内では、基本的に同じ名前の関数を宣言することはできませんし、反対にスコープの外に出ると、その範囲内で定義した関数は使用できません。しかし、すでに定義された関数がオーバーライド可能属性を持っている場合は、override
修飾子を使ってその関数を上書きできます。次に例を示します。
virtual void SayHello()
{
print("Hello,World");
}
SayHello(); //出力 : Hello,World
if(true)
{
override void SayHello()
{
print("Bonjour,World");
}
SayHello(); //出力 : Bonjour,World
}
SayHello(); //出力 : Hello,World
関数を現在のスコープの範囲外で使用できるようにするには、名前空間を通じて外部に公開する必要があります。次の例では、Calc
名前空間にPow
関数を公開することで、外部から関数を呼び出せるようにします。
namespace Calc
{
public number Pow(number a)
{
return a * a;
}
}
var num = Calc.Pow(2);
print(num); //出力 : 4
関数の上書き
AliceScriptでは、通常同じ名前を持つ関数を複数回定義したり、処理内容を再定義することはできません。
そこで、再定義される可能性のある関数をvirtual
キーワードを使用して仮想関数とすることで、関数が上書きされることを宣言でき、
実際に関数を上書きするにはoverride
キーワードを使用します。
次の例では、Hoge
関数を定義したあとそれを上書きしています。
virtual void Hoge()
{
print("Hoge!");
}
Hoge();//出力:Hoge!
if(true)
{
override void Hoge()
{
print("Hoge!Overrided!!");
}
Hoge();//出力:Hoge!Overrided!!
}
// ここは上書きスコープの外
Hoge();//出力:Hoge!
また、仮想関数は定義時に処理内容を定義する必要がありません。 処理内容が定義されていない関数を呼び出すには、必ず関数を上書きして処理内容を定義する必要があります。 次の例を参照してください。
// 定義時には処理内容は省略できる
virtual void Hoge2();
// スコープ内で処理内容が定義されていないためエラー
Hoge();
if(condition)
{
override void Hoge2()
{
print("Hoge2!");
}
// これは問題なし
Hoge2();
}
関数の外部実装
対応バージョン>=Alice3.0
関数の宣言時にextern
キーワードを使用することで、外部で実装されている関数を宣言できます。
extern
は主に、相互運用機能を使用して.NETやそれ以外のコードを呼び出すときに、#libimport
や#netimport
指令と使用します。
次の例では、.NETで定義されているSystem.Console.WriteLineメソッドを使用してコンソールにメッセージを表示します。
#netimport "System.Console","System.Console"
extern void WriteLine(string value);
WriteLine("Hello,World!");
また、次の例では、Win32APIで定義されているMessageBox関数を使用してメッセージボックスを表示します。
#libimport "user32.dll"
extern int MessageBox(HWND hwnd,LPCTSTR lpText,LPCTSTR lpCaption,UINT uType);
MessageBox(0,"Hello,World!","TestMessage",0);
デリゲートへの暗黙的な変換
ほとんどのネイティブ関数とユーザー定義関数は、デリゲート型の変数へと暗黙的に変換できます。ユーザー定義関数を丸括弧なしで呼び出すと、それはその関数をデリゲート型に変換されたオペランドと認識されます。次に例を示します。
function SayHello()
{
print("Hello,World");
}
var hello=SayHello;//helloは、DELEGATE型を表します
hello();//出力:Hello,World
- 言語構造
- 関数の区切り文字の空白をサポート
- 単一の引数のみ関数の区切り文字の空白をサポート
また、FunctionBase型を継承しない関数も、この機能をサポートしません。
属性
AliceScriptではさまざまな機能や構造が関数で設計されているため、必要に応じて関数に特別な機能を持たせることが可能です。属性の一覧を以下に示します。
属性の名前 | 修飾子 | 概要 |
---|---|---|
一般 | 指定不要 | 通常の関数です。引数などは自動的にチェックされ実行されます。 |
関数の区切り文字の空白をサポート | command | 関数の呼び出し時に丸括弧の代わりに空白文字が使用できます。 |
単一の引数のみ関数の区切り文字の空白をサポート | 指定不可 | 関数の引数がひとつのみの場合に関数の呼び出し時に丸括弧の代わりに空白文字が使用できます。 |
言語構造 | 指定不可 | 言語構造です。さまざまな形で使用できるため引数の自動チェックや最適化が実行されません。 |
オーバーライド可能 | virtual | オーバーライド可能な関数です。 |
オーバーライド | override | 既存の関数をオーバーライドします。この関数をオーバーライドすることもできます。 |
グローバル関数 | public | すべてのスコープで使用可能な関数です。 |